2019/11/22 

ひもにつながれて散歩。ベッドで眠り、ボールで遊び、ぬいぐるみにしがみつく――何のペットかわかるだろうか? 犬、猫、ウサギ、ハムスターではなく、このペットは東南アジア原産のコツメカワウソだ。このカワウソは「さくら」の名で、日本の家庭で飼われている。さくらの動画がYouTubeやTwitterに投稿されると、またたく間にソーシャルメディアで拡散し話題になった。

野生のコツメカワウソは、小川やマングローブで魚や甲殻類を捕って暮らしている。この動物が今、同じ東南アジア原産のユーラシアカワウソ、ビロードカワウソ、スマトラカワウソとともに、ペット取引で人気を集めている。一番人気なのがコツメカワウソで、インドネシア、タイなどの東南アジア諸国で捕獲され、地元だけでなく他国でペットとして販売されていると、研究者は考えている。

野生生物取引を監視するNPO「トラフィック」東南アジア支部のカニタ・クリシュナサミー氏は「不運なことに、カワウソの愛らしさが、人を魅了します」と話す。「ペットとして、カワウソは今大人気です」

東南アジアのカワウソは賢く、細身の小さな体にずんぐりした四肢と愛らしい顔をしていて、外見も魅力的だ。この生き物をペットにするために、喜んで数十万円を支払う人は多い。

「トラフィック」が発表した最新の報告では、2018年1~5月中旬に東南アジア5カ国のFacebookを調べると、700匹以上のカワウソが販売されていたことが判明した。その大部分が、若いコツメカワウソだ。コツメカワウソは爪の長いほかのカワウソより体が小さく、体重は5キロ足らずだ。

先に紹介した東南アジアに生息する4種のカワウソは、今のところ絶滅の危機にはない。しかし、数が増えているかというと、それも違う。殺虫剤の摂取、開発によって生息地が失われるなどの問題に直面しているからだ。高密度の毛皮がコートや帽子の素材として珍重される中国向けに密猟も横行している。また、アジアの一部では、カワウソの血や脂、骨に「癒やしの力がある」と信じられ、こうした需要が密猟を後押しする。

しかし、トラフィックの報告書では、密猟の一番の原因はペット取引だという。

人が飼育する環境でカワウソを繁殖させることは、可能ではあるが「実際には難しい」とクリシュナサミー氏は言う。子と親を健康に育てるには、カワウソ専用の餌を与える必要があるし、さらに犬ジステンパーなどの感染症の予防接種もしなくてはならない。

米オレゴン州コーバリスにあるオレゴン州立大学でカワウソの生態を教えるニコール・デュプレイックス氏は「猫を繁殖させるのとはわけが違いますよ」と話す。デュプレイックス氏は国際自然保護連合(IUCN)カワウソ専門家グループの会長も務める。

東南アジアのほとんどの国には、カワウソを守るため、捕獲、販売、所有、輸送を禁止する法律がある。コツメカワウソ、ビロードカワウソ、スマトラカワウソは、いわゆるワシントン条約、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)」の「付属書II」に掲載されているため、輸出には許可が必要だ。「野生の個体を捕獲しても種の存続は脅かされない」と原産国の政府が判断した場合のみ、輸出が許可されている。

一部の国は、カワウソの国際取引を禁止したいと考えており、2019年5月に開催されるCITESの会議で、コツメカワウソとビロードカワウソを商業目的の国際取引が禁止される付属書Iに移す提案が話し合われる予定だ。なお、ユーラシアカワウソは1977年から付属書Iに掲載されている。

現在でも、制約があるにもかかわらず、ソーシャルメディアでは、カワウソの違法取引が盛んに話題になり行われている。毒グモから大型ネコ科動物、話す鳥まで、いわゆる「エキゾチックアニマル」がソーシャルメディアで広まり、売買は以前より容易になっている。

「オンライン取引の普及が、エキゾチックアニマルを飼う人を増やしています。ネット取引は取り締まりが難しいためです」とクリシュナサミー氏は話す。

トラフィックの報告書によれば、Facebookに掲載されたエキゾチックアニマル取引の広告のうち、圧倒的多数がインドネシア、その次がタイだった(ちなみにフィリピンからの広告はなく、マレーシアとベトナムは合わせて30件ほどだった)。

インドネシアとタイで広告が多いのには、理由がある。両国では、もともとエキゾチックアニマルを飼うことが「文化に深く根差している」(クリシュナサミー氏)からだ。Facebook広告は自国のペット愛好家向けに作られているように見えるが、検問所でカワウソが押収されることもあるため、実際には国際取引が行われているはずだとクリシュナサミー氏は指摘する。

2017年、タイのバンコクにあるドンムアン空港で、カワウソの子10匹を日本に密輸しようとした女性が拘束された。日本では、カワウソが密かなブームだ(カワウソカフェができ、全国の動物園で飼育されているカワウソから一番人気を競うイベント「カワウソゥ選挙」、カワウソを冠にしたテレビ番組まである)。

米国を拠点にカワウソを販売するジェームズ・リリー氏はテキストメッセージで取材に応じた。同氏は「東南アジアのカワウソを繁殖している。カワウソはペットとして最適だ」と語った。リリー氏によれば、カワウソは遊び好きで、行動は飼い猫に似ているという。

ペットには理想的な環境ではない

デュプレイックス氏の見解は違う。カワウソは力の加減を知らず、笛を吹くような大きな声を出し、ほしいものが手に入らないときは攻撃的になると話す。デュプレイックス氏は、カワウソにかまれたときの痛みをミシン針に刺されるようなものと言う。「オオカミだって、子はとてもかわいいですよね。でも、成長したらオオカミです。カワウソも同じです」

トム・テイラー氏はNPO「ワイルドライフ・フレンズ・ファンデーション・タイランド(WFFT)」のプログラム責任者。WFFTの使命は、タイの搾取的な現状からカワウソを含む野生生物を救い出すことだ。テイラー氏は電子メールで取材に応じ、「私たちは望まれないペットの数まで把握できていません」と語った。

テイラー氏によれば、カワウソにとっても、ペットとして飼われることは望ましい状況ではないという。カワウソは本来、淡水を好む肉食動物で、最大15匹の家族群で暮らす。しかし、ペットになると、ほかの個体から引き離され、大きくても浴槽くらいの水しかない。「ペットのカワウソは、おもちゃのように扱われているようなものです。ひもにつながれ、人形の衣装を着せられたり人の食べ物を与えられたりするでしょう」

クリシュナサミー氏らは、カワウソをペット取引から守るため、既存の規制をまずきちんと実行することを求めている。法律的な縛りも必要だ。例えば、日本では、コツメカワウソを飼うことは違法ではない。トラフィックの報告書によれば、インドネシアでも、野生のカワウソを販売することは明確には禁止されていないという。合法的な販売の上限が設定されていないため、事実上、国内での販売が違法なだけだ。

デュプレイックス氏らは、さらにカワウソをペットにすべきではないという口コミを広めたいと考えている。カワウソを飼うことは「クールではありません」とデュプレイックス氏は結んだ。

(文 JANI ACTMAN、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年1月25日付]